
有珠山噴火から25年 ~人的被害ゼロの裏側と、火山活動予測のいま~
こんにちは、レスキューナウです。
今年の3月31日で北海道・有珠山噴火から25年の節目を迎えます。
有珠山は約30年前後の周期で噴火を繰り返しており、次の噴火がいつ始まってもおかしくない時期に入っています。今回は25年の節目にあたって、改めて当時の噴火についてふりかえり、現在の噴火予測と、火山活動への備えについて考えていきます。
2000年3月31日に発生した噴火の様子(出典:内閣府ホームページ)
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有珠山噴火(2000年3月~7月)の概要
2000年3月31日13:10頃、北海道・中央南西部にある有珠山(標高733メートル)で噴火が発生しました。噴煙の高度は上空3500メートルにまで達し、灰は東北東へ運ばれ、約80キロメートル離れた千歳市でも観測されました。
噴火は翌4月1日以降も発生し、いくつもの火口が開き、火山活動は7月まで続きました。一連の火山活動により発生した噴石、泥流、地殻変動による家屋やライフラインへの損害はでましたが、幸いなことに人的被害はありませんでした。
人的・物的被害
・人的被害:なし(噴火前日の30日に3市町・10,545人が避難を完了)
・物的被害:
住家全壊 |
119棟 |
住家半壊 |
355棟 |
住家一部損壊 |
376棟 |
農林水産業・インフラ被害額 |
約233億円 |
物的被害としては、インフラ被害が大きく、JR洞爺駅と洞爺湖温泉を結ぶ国道230号上に噴火口が開いたほか、同道路は噴石で埋め尽くされました。また、噴石のほかに泥流・地殻変動・落石によって道道をはじめとした道路が損傷したほか、有珠山南側を通るJR室蘭本線や道央自動車道も長期の運転見合わせや通行止めになり、北海道内の輸送網にも大きな影響が出ました。
有珠山噴火(2000年)で人的被害がなかったワケ
多くの物的被害をもたらした2000年の有珠山噴火でしたが、死者を含め、人的被害は幸いにしてゼロでした。この理由として、有珠山がこれまでの噴火経歴から特徴が把握されており、噴火の兆候からいち早く周辺住民への避難呼びかけができたことが挙げられます。
実際に2000年の有珠山噴火4日前にあたる3月27日から火山性地震が頻発し、これを受けて、室蘭地方気象台は翌28日00:50に「火山観測情報 第1号」、02:50には「臨時火山情報 第1号」を相次いで発表しました。
そして、29日には、北海道大学有珠火山観測所長が「ここ一両日あるいは3日、長くても1週間程度というその中で噴火する確率が非常に高い」とさらなる警戒を呼びかけました。
こうした専門機関や専門家の見解を受け、有珠山周辺に位置する壮瞥町・虻田町(現 洞爺湖町)・伊達市では発令していた避難勧告(当時)を避難指示に引き上げ、30日には3市町10,545人が避難を完了させました。
このように、事前の警戒情報の発信や周辺住民の早めの避難行動によって犠牲者は出ず、火山の監視体制や事前の警戒情報の重要性が改めて認識された災害だったと言えます。
避難する有珠山周辺住民の様子(出典:陸上自衛隊 北部方面隊ホームページ)
有珠山の噴火はなぜ予測できたのか
事前の情報発信や避難により人的被害をゼロにした2000年の有珠山噴火。なぜこのような噴火予測ができたのでしょうか。
それは、これまでの噴火実績から有珠山の噴火には以下のような特徴があることが把握していたからです。
【有珠山における噴火前後の活動推移】
非活動期 |
・規模の小さな火山性地震が1日数回程度発生 |
前兆活動期 |
・深さ2km以深の領域で火山性地震が加速度的に増加 |
主噴火活動期 |
・山頂噴火発生:軽石噴火、マグマ水蒸気噴火 |
新山形成期 |
・地盤隆起継続 |
非活動期 |
・地盤隆起が沈降 |
また、有珠山の場合は前兆現象と噴火までの時間が短いのが特徴でした(一部例外あり)。
実際に2000年の噴火では、火山性地震が増加してから4日後に噴火していますし、その前の1977年の噴火では規模の小さな火山性地震が増加してから約32時間後に噴火しています。
このような特徴があることから「火山性地震の増加」という現象は警戒監視のトリガーとなる重要な情報だったのです。
一方で、前兆現象が現れたからといって、必ず噴火に至るわけではありません。例えば2021年3月9日には火山性地震が179回発生し、わずかな傾斜変動も観測しました。しかし、翌日以降は火山性地震の回数は減少し、噴気活動にも特段の変化はなく噴火には至りませんでした。
噴火予測は日本の活火山の全てで可能なのか
2000年の有珠山噴火では過去のデータ蓄積で噴火予測がうまくいき、死者だけではなく、人的被害をゼロにすることに成功しました。その後、気象庁は2003年から「火山活動度レベル」を、2007年12月からはさらに情報のわかりやすさを向上させた「噴火警戒レベル」の運用を開始し、レベルに合わせて周辺住民などのとるべき防災行動を示しました。
このような火山活動に向けた様々な取り組みが進んでいますが、実際、活火山の活動予測は可能となり、リスクの低減はできているのでしょうか。
現実としては、まだ道半ばといえます。例えば、2014年に発生した御嶽山(長野・岐阜県境、標高3,067メートル)の噴火では、事前の噴火予測がうまくいかず、戦後最悪の人的被害が出てしまいました。残念ながら日本にある全ての活火山で有珠山のような噴火予測をするのは難しいといえるのが現状です。
火山活動に対してどう備えればいいのか
日本にある活火山は111あるとされ、このうち気象庁が「噴火警戒レベル」を運用している活火山は49あります。一度火山が噴火すると、火山の近くでは火砕流や泥流、噴石などが発生します。火山の近くに居住や勤務している場合は、こうした火山活動による災害から人命を守るのが第一です。
また、火山から離れていた場合も、降灰によって、健康被害や交通網のマヒ、ライフラインへの被害も予想されます。例えば、富士山が大規模噴火を起こした場合、東京都23区では2センチから10センチの降灰が予測されており、交通網やライフラインへの影響が予測されています。
首都圏では毎年のように降雪で交通網の混乱が見られますが、火山灰の場合は雪とは異なり、溶けることはありません。そのため、灰が撤去されるまで、交通網のマヒや健康被害の可能性が考えられます。
このような火山活動によるリスクは、首都圏以外でも想定されます。いま一度、個人の場合は周辺地域の活火山の噴火による被害予測などを確認し、自宅のリスクを見直し、備蓄などの備えが十分か見直しましょう。また、企業の場合は、個人と同じく被害予測などを確認し、人的・物的被害を抑えるための対策やBCPの策定を行ってみてください。