宇宙にも天気予報がある?太陽フレアとの関係は?
こんにちは。レスキューナウです。
毎日気象庁から発表される「晴れ」や「雨」の天気予報のように、宇宙にも天気予報があるのをご存じでしょうか?
「天気」とは言っても、もちろん宇宙や月面に雨や雪が降ったり、台風が発生したりするわけではありません。
あまり身近な現象ではないため、聞き逃してしまっている方も多いかもしれませんが、実は宇宙天気は文明の発展やIT化と密接な関係があり、直近に深刻なリスクが差し迫っていることを知らせる情報でもあるのです。
本記事ではこの「宇宙天気」と、その監視や予測を行う「宇宙天気予報」について詳しく解説します。
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「宇宙天気」って何?
宇宙天気とは、太陽活動に応じて変動する宇宙環境の現象のことを指します。
太陽は地球上の生物に必要不可欠な光や熱を放出し続けていますが、生命にとって有害なX線や紫外線、プラズマ(電離気体)と呼ばれる気体なども同時に放出しています。
そして太陽の活動が活発になるとこれらの有害物質が高密度で地球に到達します。
太陽の活動のうち、表面の黒点の周辺で発生する爆発現象を「太陽フレア」といい、太陽活動の中でも、ひときわ大きなエネルギーを放出します。
2024年5月に日本でもオーロラが観測されたというニュースを目にした方も多いと思いますが、これも太陽フレアから放出されたプラズマ粒子が原因で起こった現象です。
人工衛星SDO(米国NASA)で観測された太陽画像(左:可視光、右:紫外線)
出典:国立研究開発法人情報通信研究機構
黒点の数が増えてピークになると、太陽フレアや大きな磁気嵐が発生しやすくなります。
太陽の黒点の数は約11年ごとに増減を繰り返し、次のピークは2025年頃と見られています。
「宇宙天気」を予報する?
太陽フレアはオーロラのような珍しい現象をもたらすだけではありません。
通信や放送、送電施設、GPSなどの測位利用、衛星運用、航空運用、宇宙飛行士の有人宇宙活動など、多岐にわたる範囲、しかも我々の生活に直結するインフラへ影響を及ぼすことがあります。
宇宙天気現象の種類と発生する障害
出典:総務省「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」報告書
宇宙天気予報とは、これらの太陽活動や宇宙の状況を把握し、地球への影響を観測、予測することを指します。
前もって太陽活動の様子を把握し、それに伴う影響を予測して、大規模な現象が発生した場合は注意喚起できるようにするものです。
宇宙天気予報のイメージ図
宇宙天気予報のための国際組織として、国際電波連合(URSI)傘下の「国際的な宇宙天気予報のための組織:国際宇宙環境サービス(ISES)」があります。
太陽監視衛星や太陽風監視衛星など、多くの衛星を運用してデータを提供、宇宙天気予報の数値予測モデルの開発を実施し、国際協力によって宇宙天気予報を促進しています。
過去の宇宙天気による影響事例
過去にも宇宙天気によって大きな影響が発生した事例があります。
1989年3月、カナダのケベック州では磁気嵐の影響で電力会社の設備が故障し、約9時間にわたって停電、約600万人に影響が出ました。
また、1994年には各国の人工衛星の内部帯電が発生し、通信衛星や放送衛星に障害が発生、日本でも衛星放送が中断した事例もあります。
近年になるとその影響はより深刻となり、2003年10月には日本の地球観測衛星「みどり」の電源系統に障害が発生。
2022年2月にはアメリカのスペースX社が打ち上げた49機の衛星のうち、40機が磁気嵐の影響で運用可能な高度に到達せずに喪失しました。
宇宙天気における最悪のシナリオ
2022年に総務省が公開した「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」の報告書では、「最悪シナリオ」として、100年に1回またはそれ以下の頻度で発生する極端な宇宙天気現象について、起こりうる甚大な被害の内容が記載されています。
以下に一部を抜粋しました。
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どれも通信・放送・測位システム、衛星運用、航空無線、電力網などの社会インフラに異常を発生させるおそれがあり、「高度な社会インフラにより我々の文明が発展し続けるなか、ひとたび大規模な宇宙天気現象が発生した場合には、「文明進化型の災害」として社会経済に多大な被害をもたらすおそれがある」と警告されています。
これらの被害を軽減・回避するためには、先に述べた「宇宙天気予報」が社会的に認知される必要があります。
また、大規模な影響が発生すると予測された場合には、確実な警報の伝達、関係企業による対処や企業向けの標準的ガイドラインの整備など、効果的な対処方法を考えなければなりません。
宇宙天気現象の対処において目指すべき方向性
出典:総務省「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」報告書
日本での「宇宙天気予報」の歴史と今後
日本における宇宙環境にかかわる予報および警報の配信は、1949年に始まりました。
その後、1988年には国立研究開発法人情報通信研究機構の傘下に宇宙天気情報センターが設立され、「宇宙天気」予報業務が開始。
現在宇宙天気情報センターからは、日報が1日に2回(09:00頃、21:00頃)、週報が毎週金曜日21:00頃配信され、一定規模以上の現象が発生した場合は、臨時情報が「レポート」として配信されています。
さらに、太陽フレアのX線強度レベルが一定以上に達したことがリアルタイム観測データから検出された場合などは、顕著な出来事が発生したとして、「イベント通報」が速報として配信されています。
これらの情報は同機構のWebページで閲覧できるほか、メールによる配信サービスも行われています。
宇宙天気予報センターがWeb上で提供している宇宙天気予報(2021年10月30日の情報)
出典:総務省「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」報告書
ただ、これらの情報は、主に物理現象面の規模の大きさに着目したもので、専門用語も多く、社会インフラが受けるおそれのある被害の危険度が理解しにくいという課題があります。
情報通信研究機構における宇宙天気の基準(現在のイメージ)
出典:総務省「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」報告書
普通の天気予報であれば、対象となる現象が直に目にする・肌で感じる現象のため、「雨が降ります」と予報されることで傘を準備したほうが良いと直感的に分かります。
一方で、例えば宇宙天気予報で「太陽活動が活発な状態が予想されます」と予報された場合、何をすればよいのか、どの時間帯にどの程度の影響があるのか、一般の方にはまったく分かりません。
どのような現象がどういった社会的影響をもたらすのか、これを理解してもらうことが宇宙天気予報の課題であり、ユーザーのニーズに合わせた情報を提供することが急務となっています。
総務省では、2022年1月から、宇宙天気予報に関して観測・分析能力や対処の在り方等を検討するため、「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」を開催してきました。
社会的影響を考慮した新たな予報・警報基準(将来イメージ)
出典:総務省「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」報告書
通常の天気予報で「雨が降ります」と予報されたときに傘の必要性が分かるように、宇宙天気予報でも具体的な対応や危険度が理解でき、さらに影響の軽減や回避に向けた行動・対策のための行動に結びつくような情報が必要とされてきます。
総務省は「宇宙天気現象を現実のリスクとして捉え、国家全体としての危機管理の必要性」を提言しています。
宇宙天気予報はまさに宇宙空間での防災に役立つ情報として、今後さらに注目されると予想されます。