自衛消防隊本部訓練で見出した情報収集の最適解とは!?【潜入!アドバイザリーの現場①】
突如鳴り響く大音量の緊急地震速報と「地震だ!伏せろ!」の声。
その後の鳴り止まない電話のコール音。
実は今、ある会社の自衛消防隊本部の訓練に潜入しています。
改めましてこんにちは。レスキューナウの佐藤です。
皆様はレスキューナウのサービスに「アドバイザリーサービス」というものがあることをご存じでしょうか?
アドバイザリーサービスとは、各企業が抱える防災・BCPに関する様々なお悩みに対して、「①体制の構築 ②初動対応手順の策定 ③必要なツールの整備 ④各種訓練の支援」という4つの視点からアプローチすることで、災害対応力を向上させることを目的としたサービスです。
イメージとしては他社で行われているコンサルティングサービスのようなものになりますが、実はそれだけに留まらないところもあるとか。
しかし、こういったサービスは各社毎に課題が異なるため、自社の課題が解決できそうなのかわからない、実際にどんなことが行われているのかイメージしづらいという方も多いかと思います。
そこで今回は、従業員数は10,000人以上、国内外に複数の関係会社を持ち、エンターテイメント業界をけん引するS社にて実施された、自衛消防隊訓練の現場に潜入取材をしてきましたので、その様子をお伝えします。
レスキューナウのアドバイザリーサービスについて、具体的にどのようなサービスなのかを知りたいという方はぜひご覧ください。
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訓練概要
今回潜入してきたのは、自衛消防隊本部訓練の現場。
自衛消防隊とは、消防法によって設置が義務付けられた「会社の従業員で構成される自主的な消防組織」のことで、主に災害発生時の初動における初期消火や通報、応急救護等を迅速かつ的確に行い、被害を最小限に抑える役割を担う部隊です。
会社の規模が大きい場合、自衛消防隊は本部と地区隊に分けられることもあり、本部は自衛消防隊全体を統括・指揮する役割、地区隊は特定のエリアや建物の対応を担当する役割が与えられます。
会社によって役割の範囲は異なりますが、今回の自衛消防隊本部は災害発生時の安全確保に始まり、地区隊からの被害報告を取りまとめ、初動対応チームへ報告するまでを目標としています。
実際に災害が発生した際は2回の初動対応チームへの報告を120分以内に行いますが、訓練では120分間の動きをおよそ30分間に凝縮し、被害想定を変更して計3回(90分)実施。
ガイダンスや振り返りの時間を含め、合計3時間の訓練が行われました。
項目 |
時間 |
内容 |
---|---|---|
オープニング&ガイダンス |
30分 |
趣旨・訓練内容説明 |
情報収集訓練(1回目) |
30分 |
発災~被害なし |
情報収集訓練(2回目) |
30分 |
発災~物的被害 |
情報収集訓練(3回目) |
30分 |
発災~火災発生・負傷・避難 |
休憩 |
10分 |
|
全体振り返り&クロージング |
20分 |
振り返りまとめ、最後の挨拶 |
事務局振り返り |
30分 |
事務局からの改善点の洗い出し |
訓練のために会議室に集められた自衛消防隊本部のメンバーは全部で14名で、主に地区隊からの情報を受け取る情報収集班、負傷者の情報を確認する救護班で構成されています。
以前、地区隊や初動対応チーム等の他の訓練を経験した方もいらっしゃる中でどのような訓練となるのか、取材班の気持ちも高まります。
訓練開始前 - 和やかな空気で進むガイダンス
訓練開始前は当社のアドバイザーからその日の訓練の目的や内容、タイムスケジュール等を説明するガイダンスが行われます。
今回の訓練目的と内容は、それぞれ以下の通りです。
【訓練目的】
- 自衛消防隊本部を対象とした、災害対応の理解と手順の習熟
- 作成した体制・手順・ツールの改善点の洗い出し
【訓練内容】
- 地区隊のダミーの被災情報をもとに、本部隊の対応訓練を行う
- 本部隊にて情報の整理を集約し、時間内に初動対応チームに報告する
- 地区隊からの報告漏れを確認し、必要な対応を指示する
- けが人、発火等の情報に対して、適切な対応を指示する
- イレギュラーな事象を、本部隊長・副隊長へ報告・相談する
訓練目的や内容は各社の課題に合わせて毎回異なるものが設定され、それに合わせたプロトコルと被害想定のシナリオが作られています。
その後、訓練全体の流れや大まかな動き方、用意したツール(ホワイトボード、課題管理シート等)の使用方法を確認すると訓練開始まで束の間の休憩タイムです。
訓練1回目 - なぜ?存在しないはずのエリアからの報告
各々談笑し、次第にリラックスしたムードが漂ってきた頃、会議室内に突如緊急地震速報が鳴り響きます。
-「地震だ!伏せろ!」
という声とともに、その場にいた全員が一斉に机の下に潜り、身を守る態勢をとります。
周囲の人の安全を確認し、防災センターからの放送が聞こえてくると、隊長が自衛消防隊本部の立ち上げと情報収集班、救護班の編成を指示します。
情報をまとめるためのホワイトボードを準備する中、副隊長がメンバーに対して電話を受ける人とホワイトボードに情報をまとめる人でペアを組むように声をかけ、情報のまとめ方についても指示を出します。
1回目ということもあり、ここまでは皆さん笑顔で楽しそうにコミュニケーションをとっている印象です。
そんな中、早くも地区隊からの電話が鳴りだし、それを受けた情報収集班のメンバーは各々手元のポストイットに聞き取った内容をメモし、それをもとにホワイトボードにエリアごとの現在の状況がまとめられていきます。
しかし、時間が進むにつれて、本来存在しないはずのエリアからの報告が上がってきているといった不思議な状況が発生。
他にも、ゆっくり状況を確認してから電話をしてくる隊と、素早く2回目の報告を上げてくる隊の違いなどにより、「いつが2回目の報告なのかわからない」といった課題も浮き彫りに。
人が入り乱れ、用意した3台の電話がひっきりなしに鳴る会議室。
電話を受けてはまた次の電話と、その内容を報告する時間的な余裕がない中でも、鳴り続ける電話は待ってくれません。
地区隊からの報告を受ける係は3人いるため、お互いに誰か出てくれないかと思うものの、いずれも皆同じ状況。
鳴り響く音により緊張感に包まれる会議室で、正確な情報収集と共有を行うことは想像以上に難しいといえます。
あっという間に1回目が終了し、訓練中に浮かび上がってきた課題を整理。
そこでは、受電者は1報目か2報目かを必ず電話越しに確認すること、エリアを正確に把握するために「フロア内の柱に書いてあるエリア名を見てください」と地区隊に伝えること等が決められました。
訓練2回目 - 情報収集ツールの最適解を発見!
電話を受ける人とホワイトボードに情報をまとめる人を交代し、数分間の休憩を挟みますが、その間もそれぞれどこに課題があったのか振り返る手を止めることはなく、すぐさま2回目の訓練が開始。
1回目は被害なしを想定したシナリオで訓練が進みましたが、2回目は被害ありの想定で訓練が進みます。
最初は遠慮がちにコミュニケーションをとっていた方も、徐々に声が出るようになり、地区隊からの報告量が増えるにつれて、次第に皆さん真剣な顔に。
会議室全体の熱量が、1回目よりも明らかに上がってきている様子が見て取れました。
エレベーターに閉じ込められた人や負傷者といった様々な報告が上がる中、病院のひっ迫により現場での対応が求められる等、よりリアルに近い災害対応の現場が再現されます。
そんな中、受電者の1人が複雑化する被害状況を取りこぼさず記録するため、独自にメモ用のフォーマット(ホワイトボードを縮小したようなもの)を作成。
1回目で実施したポストイットに記録する方法では、電話を受ける人からホワイトボードに情報をまとめる人への報告のスピードと正確性が上がらないというところから生まれたアイデアでした。
また、事前に準備していた被害有無をわかりやすくするための〇のマグネット(色は白黒)はほとんど使わずに直接〇を記入する等、その時々の状況に合わせて大胆に対応方法を変更することで、対応に磨きをかけていきます。
その様子を見た副隊長は
- 「最適解ができた!」
とすぐさま共有し、メンバー1人のアイデアから自衛消防隊本部全体の情報収集が効率化されていきます。
その一方で、人によって課題管理シート(被害ありの場合にその詳細をまとめる用紙)を書く人、書かない人がいたりといった、必然ともいえる個人差など、今後に繋がる新たな気づきもありました。
重傷者や大きな被害があった際は、何よりも隊長・副隊長への「報告」を優先することや、何回目の報告かによってホワイトボードに記載する際の色・マグネットを使い分けることが共有されました。
訓練3回目 - カオスな状況下で最もスムーズな情報共有を実現
再び数分間の休憩時間が取られ、2回目の共有と振り返りの話題が尽きない中、最後の訓練が開始。
これまでよりも被害の多い状況を想定したシナリオで訓練が進み、最後は火災発生からの全社避難まで行います。
緊急地震速報が鳴り終わり、安全確認が完了すると、隊長の指示を待たずに自衛消防隊本部のメンバーそれぞれが瞬時に配置につくその様子は、まさに本番さながら。
各エリアから次々と被害報告が上がり、あちらこちらへと情報が錯綜するカオスな状況が繰り広げられる中、3回目においても対応がどんどんブラッシュアップされていきます。
先程までの反省を踏まえ、重傷者がいる場合のみホワイトボードに黄色のマグネットを貼ったり、被害状況が確定したところからチェックマークを付けるようにしていったりすることで、状況を可視化できるように修正。
何をどこに報告・確認するか等、秒単位でのコミュニケーションが求められる中、
- 「食堂の状況確認した?まだ?」
というような声かけも増加し、被害なしを想定した1回目よりも3回目の方がスムーズな情報共有がなされます。
その結果、報告がないエリアがなく、自衛消防隊本部がすべてのエリアの被害状況を把握できたという結果に。
最後は、良かった点や課題が残る点、その改善案がメンバー間で議論され、アドバイザーから災害対応力を向上させる4Tのうちの「体制」「手順」「ツール」それぞれについて、細かいアドバイスがなされました。
まとめ
今回の訓練中に印象深かったのは、会話の中でふと聞こえてきた
- 「ずっと電話がかかってくるの疲れたよ」
という言葉。
筆者もコールセンターで働いた経験があり、電話の音を聞くだけでドキッとする気持ちが痛いほどよくわかります。
地区隊からの電話を受けていたのが、普段から電話対応をしている総務部の方中心だったということもあり、訓練中は皆さん比較的落ち着いた様子だった一方で、実際にはかなり疲労を感じられたはずです。
今回の自衛消防隊本部訓練は、1回30分の計90分間で実施されましたが、大規模な災害が発生した場合はそれ以上の時間集中力を切らさずに対応することが求められます。
また、今回はあくまで訓練ということで、災害発生時の対応の流れがメンバー全員の頭に入っている状態でスタートしました。
それでもなお、情報収集・共有がうまくいかない場面が見られたことを踏まえると、日頃から訓練を実施し、体制や手順をブラッシュアップしておくことや使用するツールを準備しておくことの重要性を改めて痛感します。
もちろん事実ではない報告が来ることなど、訓練中にシナリオにも書いていない想定外の事態が起こる可能性もありますが、我々としてはそれらも全て織り込んで訓練を行います。
なぜなら、災害や危機が発生した際は、むしろ「想定外」や「イレギュラー」が普通と言えるような状況になり、当然その後に続く対応にも同様のことが言えるからです。
予め「想定外」を体験しておくことで、できるだけ多くのことを「想定内」に近づけていただきたい。
有事の際に事業を継続していくためには、こういった事態を想定して、何度も繰り返し訓練をしていくしかないのだと、改めて強く実感しました。
編集後記
今回訓練を実施したS社では、参加者が会場に来た瞬間に訓練が始められるよう、事前にかなり作りこまれた30ページほどの資料が準備されていました。
取材陣もいただいたのですが、自社の状況に完全にフィットさせた資料の完成度には、訓練支援を行っている我々にも多くの学びがありました。
また、電話で報告をしてくれていたメンバーの方は別の会議室にいらっしゃったのですが、実はこちらの部屋も迫真の演技力で訓練を大いに盛り上げてくださいました。